はてなダイアリー  -ひまもてアーカイブス-

2016.1.6以前の記事はダイアリーのものです。

【にもの】と【煮ると炊く】のもんだい。

定期開催、あれっこの日本語どういうこと、のコーナーです。今回は(も)料理の煮物に関することばついて。煮物、煮つけ、煮しめ、などなどの厳密な違い、分かりますか?急に疑問になりました。
前回*1めんどうくさくて中途半端に放置した「煮る」と「炊く」の違いも一緒に、図書館で調べてきましたのでまとめます。

「煮る」と「炊く」

  • 日本国語大辞典P.543 にる【煮る】
    水を加えたものを火にかけ、水を沸かして熱をとおす。特に食物を汁といっしょに火にかけ、調味して、その沸騰した汁でやわらかくして食べられるようにする。
  • 日本国語大辞典P.844 たく【焚・炊・焼・炷・薫】 より抜粋
    4.火を通して食べられるようにする。煮る。かしぐ。また、湯などをわかす。
    (語誌)4について
    1. 加熱調理動作を表すようになったのは比較的新しい。(中略)「日本読本」にあるように、飯についてはタクといい、汁物(野菜)など飯以外の物についてはニルという現代共通語の体系が近世から近代にかけて成立したものと思われる。
    2. 方言分布をみると、関西地方を中心に、飯、野菜類の両方についてタクという地域が分布している。なお、東北地方などには飯をニルという地域があることから、野菜類と飯両方ともニルと言ったのが、もっとも古い体系と推測される。

ふおお、広辞苑ではいまいちはっきりしなかった部分がすかっと解説されている。「煮る=(一部地域において)炊く」である、ということであります。なぜ前回ここまでしなかったのかと自分を責めつつ。すっきりしました。
京のやんごとなき人々がその昔『最近さあ、飯は「炊く」っていうやん?飯とおんなじように火を入れるんやし野菜も「炊く」でよくね?』と言い出してその周りで流行りだした、という絵を妄想してしまった。そのやんごとなき人々はギャルメイクでな…(どうでもいい)

煮物に関する用語

鰈の煮つけ、かぼちゃの煮物、御節に入っているのはお煮しめ、などなど、調理方法は似ているのにわざわざ呼び分けてます。自分のなかでこの呼び分けが実にええかげんになってるように思いました。きちんと料理を習っていたらこういうことにはならないんでしょうが、ニホンゴとしてとても興味が沸きました。
自分の理解では

  • 煮物=水分のなかでで食材を柔らかくした料理の総称
  • 煮つけ=水分を残したまま食材を柔らかく仕上げた煮物料理
  • 煮しめ=水分をしっかりとばして食材に火を入れた煮物料理

かなあと思っていました。ハイクしたら『そういうのひっくるめて「炊いたん」っていうよね』と教えてもらったため、煮る=炊くの公式は正しいんだなあと思った。うん。
さて、ことばの呼び分けと実際の調理法は違うのか。私の理解と呼び分けは正しいのか。和食の料理用語事典―料理と調理技術がよくわかるという本があったので、「煮物」の項を開いてみますと、調理法として

揚げ煮・炒め煮・煎り煮・うま煮・角煮・黄身煮・伽羅煮・栗渋皮煮・酒煮・桜煮・沢煮・じか煮・治部煮・白煮・炊き合わせ・筑前煮・照り煮・煮こごり・煮ころがし・煮しめ・煮つけ・煮びたし翡翠煮・含め煮・ぶどう煮・風呂吹き・味噌煮・蜜煮・瑠璃煮・若竹煮

の30種類が紹介されています。うわお。これを見るだけで、先人は素材にあわせて調理法を変え、呼び分けて、食べることを愉しんできたんだなあ、と分かります。私なんぞがてきとーに呼び分けてごめんなさい、土下座。
この本によると、「これらの調理をした食べ物全般を煮物と呼ぶ」という私の認識は間違ってなさそうです。が、各項目を見るとこう書いてあるの。

  • 煮しめ:味がしっかりしているので、正月の重詰や折詰、弁当などに向く煮方。材料に味を充分に含ませるため、一気に煮上げず、煮ては冷まし煮ては冷ましを繰り返して、煮汁が少なくなるまで煮詰めていく。
  • 煮つけ:少ない煮汁で魚介類や芋類、かぼちゃなどの野菜を煮る方法。汁が残らないように煮詰め、甘辛く仕上げる。

煮つけってそうなんだ!目から鱗。汁が残ってるのが煮つけだと思ってましたが、甘辛く煮るのが煮つけなんだそうです。知らなかった。一応、国語辞典でこれらを引くと

  • 日本国語大辞典P.435 にしめ【煮染】
    魚・肉・野菜などを味付けした汁で煮込み、多少汁気を残し、照(てり)をつけないで煮上げたもの。煮染物。
  • 日本国語大辞典P.465 につけ【煮付】
    煮付けること。野菜・魚などを醤油その他の調味料を加えて汁がしみ込むまで煮ること。また、その食品。

汁あるなしには言及されていなかった。なるほどねえ。
なんかもう、間違えるの恥ずかしいから、わざわざ呼び分けないでいっしょくたに「煮物」って呼ぼうかな、と思えてくるほどの奥深さ。和食の繊細さの一部を確かに垣間見ました。

ちなみに。食の民俗事典という本にも煮物に関する記述がありまして

P.305 煮しめ[ニシメ]の項より(抜粋)
煮物全般を指して、関西では「炊き合わせ」、関東では「煮しめ」と呼ぶ場合もある。

ということです。西と東、地域による違いもあるんよ。ニホンゴ、ムズカシデスネー。狭い国だと思っていたけど、実に複雑。そして、おもしろい。

2012-05-08借出本(4冊)

カササギたちの四季

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好奇心ガール、いま97歳

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キッチン・ルール―台所の法則

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和食の料理用語事典―料理と調理技術がよくわかる

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ふう、おなかいっぱいだぜー。

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